1.研 究 目 的
本報告は、A県B市において実施されている「在宅高齢者生活支援活動」に対する地域住民の意識と態度の分析を通し、地域住民の「生活支援サービス」への参加可能性について検討することを目的としている。
「生活支援サービス」(見守り、外出支援、家事援助等)は、「地域包括ケアシステム」の5本柱のひとつに掲げられている。そのモデルは、民生委員児童委員、福祉員、老人クラブ、福祉ボランティア団体等が地域社会において展開している各種の在宅高齢者支援活動に求められる。しかし、これらの活動は、現状では少数の地域住民によって担われており、その量的拡大と質的向上を図ることは、システム構築の上で避けて通ることのできない課題となっている。
そこで本研究では、人口2,000人前後の3つの小学校区を対象地域とし、一般地域住民を対象とする無作為抽出調査によって、地域住民の「生活支援サービス」への参加には、どの程度の可能性があるのかを明らかにすることとした。
2.研究の視点および方法(省略)
3.倫理的配慮(省略)
4.研 究 結 果
主な調査結果は下記の通りであった。なお、いずれの結果も複数回答によるものである。
(1)「要介護時の在宅生活必須条件」について尋ねたところ、「住民どうしの助け合い」をあげた回答者は31.9%であった。これを3地区で比較すると、a:27.1%<b:37.5%>c:30.7%となっており、活動形態による効果が窺われる結果となっている。
(2)「在宅高齢者生活支援活動」に対する支持理由(複数回答、活動支持度は93.0%)について尋ねたところ、①「将来自分や家族が地域からの支援を必要とするかもしれない(将来保障的利己主義)」(69.3%)、②「高齢化と世帯人員減少によって生じる課題は住民の支え合いで解決すべき(理念的互助主義)」(52.7%)、③「地域からの支援が必要な方を知っている(現実的互助主義)」(35.7%)等であった。これを3地区で比較すると、①については、a:68.1%<b:69.9%>c:69.8%、となっており僅かな差異に留まっているが、②については、a:45.8%<b:55.1%<c:57.2%、となっており地域特性による効果が、また、③については、a:27.7%<b:43.4%>c:34.7%、となっており活動形態による効果が窺われる結果となっている。
(3)「在宅高齢者生活支援活動」への参加度と参加意欲について尋ねたところ、①「現在、参加していない」(48.7%)、②「今後も参加意欲なし」(11.8%)となっており、単純にその差異をみると「潜在的参加者」(何らかの参加意欲を持っているが現在参加していない者)は回答者の36.9%に達する。これを3地区で比較すると、a:46.9%>b:27.4%<c:37.1%、となっており地域特性と活動特性による効果が窺われる結果となっている。
(4)「在宅高齢者生活支援活動」のひとつである「ご近所に対するさりげない見守り」については、①「現在、参加している」(27.4%) 、②「今後、参加したい」(55.0%) となっており、「潜在的参加者」は回答者の27.6%に達することが明らかとなった。これを3地区で比較すると、a:29.3%>b:25.7%<c:28.4%、となっており僅かな差異に留まっている。
5.考 察
調査対象地区では、(3)の結果から「在宅高齢者生活支援活動」に今後関わる可能性のある「潜在的参加者」が3割強存在していること、(4)の結果から具体的には「ご近所に対するさりげない見守り」活動への参加が3割弱見込まれることが明らかとなった。
以上から「生活支援サービス」への参加者の量的拡大が期待されるが、その実現のためには、「潜在的参加者」を顕在化させるための契機、すなわち参加促進の条件を明らかにする必要がある。価値意識的条件について尋ねた(2)の結果では、「将来保障的利己主義」がいずれの地区でも7割近くに達している。これを足場としながらも、より能動的な行為を生み出すと考えられる、「理念的互助主義」「現実的互助主義」を付加するための条件について、さらなる検討が必要であると考えられる。
※本報告は、JSPS文部科学省科学研究費補助金助成事業基盤研究C「地方中小自治体におけるインフォーマルケアシステム構築に関する比較事例研究」(課題番号25380756)の助成を受けて実施したものである。