現在、医療のDX 化は急速に進んでいるが、看護においては看護記録の電子化や標準化の取
り組みは遅れている。その理由としては三つのことが考えられる。一つは、電子カルテを導入
している施設の多くが、紙カルテ時代の看護記録の慣習を依然として継続していることである。
二つめは、看護記録は看護師同士の情報伝達のためにあるという認識が強く、患者の重要な情
報を多職種と共有するという意識が薄いことである。三つめは、看護計画の標準化が患者の個
別性を阻むという誤解から、電子化において標準を十分に検討されてこなかったことである。
我々看護の臨床知識研究班では、2016 年に厚労省の標準規格となった看護実践用語標準マス
ターの構築とこれを用いた標準看護計画である看護思考プロセスナビゲーター(以下、看護ナ
ビ)を開発した。現在、看護ナビはチームコンパスというアプリケーションで電子カルテ上の
PCAPS(患者状態適応型パス)に統合できるようになった。これにより、紙カルテでは困難で
あった適時記録による多職種での情報共有や看護計画と実施記録との連動による一貫性を保
つことが可能となった。これは同時に、リスクマネジメントの記録としての重要な役割を果し
ている。さらに看護ナビは、策定時にアセスメントが組み込まれるため、チームコンパス上で
患者の状態に応じた計画変更がナビゲーションされ、患者の個別的な看護記録として記載され
る。
このような、標準化と構造化による看護記録は、叙述記録よりも効率的で良質な情報を多く
産出できるというメリットがあり、良質なデータの蓄積は、将来の看護ビッグデータの構築に
つながる可能性もある。
看護DX 化の目的は、ICT を活用して、組織における看護サービス提供システムをよりよく変
化させることである。ICT を活用した看護記録の効率化が、看護師の超過勤務を軽減し、ベッ
ドサイドケアの時間を充実させ、看護師が専門職として臨床判断能力を育むための時間を生み
出すことに繋がると考える。