本研究は、地域在住高齢者を対象として行った。研究1 では、516 名を分析対象とし、過去・現在・未来の想起内容とそれに伴う感情と、PGC モラールスケールおよびGDS を用いた精神健康との関係を質問紙調査を用い検討した。研究2 では、4 名を対象とした3 回の集団回想法から、リーダーが語り手に対してこれまでの体験の意味づけの広がりや未来を考えることを促すという関わりをすることによる、聞き手への影響について検討した。その結果、研究1 では、過去についての想起内容は、「仕事」、「戦争」、「趣味」、「子ども時代」、「友人」等であり,想起時の感情は、「楽しい」、「充実」、「みじめ」、「腹立たしい」が多かった。未来の想起内容は、「自分や家族の健康」、「老後」、「孫」、「死」、「子ども」等であり、想起時の感情は、「不安」、「頭が混乱する」が多かった。過去・現在・未来を想起した時の感情と精神健康度との関係については、過去,現在,未来を通じて肯定的感情を持っている者は、過去、現在、未来を通じて否定感情を持っている者と比べて主観的幸福感が高かった。また、過去あるいは現在のいずれかにおいて、肯定的感情を持っている者は否定的感情を持っている者と比べて主観的幸福感が高かった。このことから、過去あるいは現在に対してネガティブな感情を持っている対象者に対しては、回想法や認知的介入等の関わりが効果的であると考えられた。研究2 では、人生の振り返りは、これまでの生き方に対する肯定感を高めたり、人生の区切りとしてその先の準備につながるという語りが得られた。未来の予測は、主として不安をともなうため、普段はあえて意識から避けられやすいと考えられる。よって、人生の統合に向けた過去の振り返りに続けて、安心できる場で未来をともに考えることは、その後の生き方を改めて自身に問い直す機会となるため有用であると考えられた。