本研究は、戦後において父親や義兄の不在の経験を持つ戦争遺児5名へのインタビューをもとに、父親や義兄の不在をどう意味づけてきたかについてナラティブの視点から検討した。その検討を通して、喪失に直面した家族や個人のレジリエンスについて考察した。不在や喪失への受容は簡単なものではなく、解決に向けて急速にすすむものでもない。不在と喪失の悲しみや怒りとともに生きることになる。そうしたとき、「父親の役割を、自分や遺された者が受け継ぎながら生活基盤を維持すること」、「家族の中で故人の記憶や故人への思いを共有すること」、「他の家族と分かち合えないことがあっても、故人との特別なつながりがあると感じられることに価値を見出すこと」があることが、遺された者にとって、父親の不在・喪失をともないながら生き続けるためのレジリエンスとなり得ることが考えられた。