【目的】小魚の主要なカルシウムは、不溶性のリン酸カルシウム等の形で存在しており、生体内での吸収率は低い。昨年度の研究により、しらす干しに柑橘果汁を加えた場合、カルシウム可溶化率は果汁中のクエン酸濃度と相関することが明らかとなった。カルシウム可溶化にはクエン酸以外の成分も関与している可能性があることから、本研究ではクエン酸に次ぐ主要有機酸であるリンゴ酸がカルシウム可溶化に及ぼす影響について検討した。
【方法】しらす干しは山口県萩産のものを用いた。長門ユズキチ果汁については平成27年に収穫された果実の果汁(冷凍保存)1種類と平成28年に収穫された果実の果汁3種類、ビン詰め100%果汁5種類を試料とした。しらす干し5gに対して果汁あるいは有機酸溶液1mlを加えホモジナイズし、遠心分離して得られた上清をしらす干しのカルシウム可溶化区分とした。これらを550℃で灰化し、1%塩酸で希釈したものを原子吸光光度計にて測定した。果汁中のクエン酸とリンゴ酸は市販酵素法キットにより測定した。
【結果】長門ユズキチ果汁のクエン酸含量は田万川産が最も多く4.43%、平成27年搾汁果汁が2.89%と最も低かった。リンゴ酸含量は瓶詰果汁「長門ゆずきち100%」が最も多く0.70%、「ゆず吉酢」0.21%と最も低かった。果汁中のクエン酸に対するリンゴ酸の割合は11~17%程度であった。長門ユズキチ果汁を加えることにより、しらす干し中のカルシウム可溶化率は15%にまで上昇した。クエン酸溶液を用いた場合、濃度に比例してカルシウムの可溶化率は上がり、クエン酸10.0%では27%の可溶化率となった。リンゴ酸溶液を用いた場合も、濃度に比例してカルシウムの可溶化率は上がり、1%リンゴ酸におけるカルシウム可溶化率は2.43%であった。
【結論】リンゴ酸にも濃度依存的にカルシウムを可溶化させる作用があることが確認された。