【受賞理由】
江戸時代後期の曲亭馬琴作「椿説弓張月」の完訳版を2025年に出版。七五調や掛詞などの独特 な言い回しを含む当時の文章を、馬琴の文体を巧みに活かしつつ読者に分かりやすく訳したほか、 既存の訳で省略されていた序・跋や題詞、口絵の歌や句なども完訳し、葛飾北斎による挿絵もすべ て収録した。注釈や解説の充実ぶりも特筆され、読まれざる古典となっていた「弓張月」を現代に 甦らせたと言える。
また、馬琴の友人で多数の紀行文を残しながら、知る人ぞ知る存在だった小津久足(桂窓)の業 績に光を当てた「大才子 小津久足」(2023年)は、膨大な文献を渉猟し、豪商や文人として久足 が使い分けた四つの名前を通じて、江戸時代の思想や社会の実像に迫った。近世文学に関する豊富 な知見を基にしたこれらの業績は、古典の価値と魅力を広く伝えるものとして高く評価される。